日本も世界もスロートラベル

text by 編集室
photo by Works

釜石の山の魅力を伝える栗橋地区で郷土食と歴史話をたっぷり

日本の製鉄業を支えた
橋野高炉跡に降り注ぐ春ゼミの鳴き声

6月中旬の約2週間に限って鳴く春ゼミがいるという。地元ではヨギと呼び、この時期、笛吹峠に行けば、山全体がヨギの鳴き声に包まれるとか。そのとき、私たちは笛吹峠に近い釜石市橋野町の青ノ木地区にいた。時期もまさに、その時期。梅雨空にわずかな晴れ間がのぞいた午後、ヨギの鳴き声が頭上から降り注いだ……。

釜石市のグリーンツーリズムを紹介する第2弾は、山編となる栗橋地区(栗林町+橋野町)の魅力をお伝えする。いまでは山里ののどかな景観が広がるエリアだが、かつては製鉄業で日本の近代化に貢献したところである。1858(安政5)年に日本近代製鉄業の父といわれる大島高任によって建設された橋野高炉(国内現存最古の洋式製鉄炉)跡をはじめ、製鉄に関する産業史跡がいくつか残され、往時の面影をしのぶことができる。

青ノ木主婦の会に作っていただいた
「高炉膳」を味わう

ここで最初にお会いしたのが、「青ノ木主婦の会」の会長・小笠原静子さんと佐々木かよさん。「自分たちがいいと思うもの、楽しめることを無理せずやっていく」というモットーのもと、活動の一環として郷土料理にも取り組んでいるという。そんなお二人に、昨年ネーミングしたという「高炉膳」を作っていただいた。春は山菜、夏は野菜、秋はキノコなど地場の季節の素材を中心とした高炉膳だが、化学調味料や添加物は一切使わず、その代わりに水と空気と真心をたっぷり。塗り膳や器などは集落に100年以上伝えられているものだという。

この日、お膳に並んだ料理の素材を見れば、フキ、ミツバ、ウド、エゴマ、シイタケ、ネマガリダケ、シドケ、イワナなど、まさに山野の味覚がたっぷり。さらに朴葉に包んだアズキまんま、ひっつみ、野草茶など盛りだくさん。料理のベースにあるのは、かつて農作業のときに“結い”で手伝いに来てくれた人たちにふるまったものである。自分たちが歩んできた生活史を掘り起こすことこそが、身の丈にあったグリーンツーリズムにつながっていくのではないだろうか。お二人に会って、そんな思いを強くした。

「橋野どんぐり広場」で聞いた
一揆の話に歴史の陰影を想う

産地直売所「橋野どんぐり広場」でお会いしたのは、橋野地区直売組合組合長で観光ボランティアもつとめる佐々木章夫さん。地元では豆腐やそば作りの名人としても知られ、釜石のグリーンツーリズムに欠かせない佐々木さんだが、「この産直所ができて10年になるが、お年寄りが元気になった」という。

佐々木さんにうかがって興味深かったのは、地元の一揆の話。かつて大佛次郎が「ペリー提督の黒船に人の注意が奪われている時期に、東北の一隅で、もしかすると黒船以上に大きな事件が起こっていた」と『天皇の世紀』に記したのは、1853(嘉永6)年の三閉伊一揆のことであり、それを率いたのが地元出身の三浦命助という人でした。この一揆の参加者は25000名。江戸末期に多発した百姓一揆の中でも最大のものだったとか。実は南部藩は江戸時代を通じて全国一の一揆発生数を記録したところで、それだけ厳しい自然環境だったことがうかがえる。その命助の先達ともいえるのが、1755(宝暦5)年の大飢饉をきっかけとして道造りに生涯を捧げた鞭牛和尚という人でした。地区内には三浦命助の碑、鞭牛和尚隠居屋敷跡が残されている。

高炉膳の問い合わせ・予約先
●青ノ木主婦の会
(小笠原静子さんTEL.0193-57-2005/
佐々木かよさんTEL.0193-57-2467)
※予約は3日前までに。青ノ木地区の「峠の茶屋」などで食べられる。
●宝来館 TEL.0193-28-2526

春ゼミ発見! 短かき生命ゆえ思いっきり鳴いてください。

春ゼミ発見! 短かき生命ゆえ思いっきり鳴いてください。

国指定史跡の橋野高炉跡。これはフイゴ座の跡。周囲は公園として整備されている。

国指定史跡の橋野高炉跡。これはフイゴ座の跡。周囲は公園として整備されている。

これが高炉膳(1200円)。その時々の地場の素材が使われる。ぬくもりが伝わる味。

これが高炉膳(1200円)。その時々の地場の素材が使われる。ぬくもりが伝わる味。

アズキまんま。熱いうちに朴の葉に包むと、いい香りがつくし、長持ちもする。

アズキまんま。熱いうちに朴の葉に包むと、いい香りがつくし、長持ちもする。

青ノ木地区の名産、チョロギ。この根っこにお節料理で見かけるあのチョロギが成る。

青ノ木地区の名産、チョロギ。この根っこにお節料理で見かけるあのチョロギが成る。

青ノ木主婦の会の小笠原静子さん(中)と佐々木かよさん(左)。右は宝来館女将の岩崎昭子さん。

青ノ木主婦の会の小笠原静子さん(中)と佐々木かよさん(左)。右は宝来館女将の岩崎昭子さん。

産地直売所の「橋野どんぐり広場」。売られている野菜類や加工品は驚くような安さ。

産地直売所の「橋野どんぐり広場」。売られている野菜類や加工品は驚くような安さ。

産直所の「橋野どんぐり広場」の敷地内にある水車小屋。粉引きや餅つきに使われる。

産直所の「橋野どんぐり広場」の敷地内にある水車小屋。粉引きや餅つきに使われる。

テレビでおなじみの料理人・神田川俊郎さんも絶賛する橋野町産の水「山華」。

テレビでおなじみの料理人・神田川俊郎さんも絶賛する橋野町産の水「山華」。

佐々木章夫さん(右)と地元の方々。

佐々木章夫さん(右)と地元の方々。「橋野どんぐり広場」は地元活性化に役立っている。